『ラ・ボエーム』とは、「ボヘミアン」のことです。1830年当時のパリには、貧しいけれど希望を胸に生き生きと過ごしている芸術家の卵がたくさんいました。そんなボヘミアンの日常的な風景を、このオペラは描き出しています。作曲したプッチーニも20代で故郷ルッカからミラノに出て、苦学に励んでいたことから、このオペラに特別な愛着があったと言われています。
このオペラの見どころは何と言っても、ロドルフォとミミが恋に落ちるシーンです。暗闇の中、先に鍵を拾ったロドルフォは、それをポケットに入れ、再び鍵を探すふりをして、ミミの手を握ります。このときロドルフォが「冷たい手を」歌いを、続けてミミが「私の名はミミ」のアリアを歌って、二人は惹かれ合い、恋に落ちます。
そして、最後ミミが仲間に見守られながら死んでいくシーン。ロドルフォは、仲間の顔を見て「なんでそんな顔をしてるんだ?」「どうして俺のことを見るんだ?」と思います。そして、はじめてミミが息を引き取ったことに気づくのです。最期にロドルフォがミミの名を2回叫びます。この劇的な幕切れは、多くの人の涙を誘うことでしょう。
1965年製作のオペラ映画で、前年4月にスカラ座で大当たりをとった公演で使用された実際の装置、衣裳を使って撮影されたものです。
監督は、前年の公演での演出と同じくフランコ・ゼッフィレッリが担当。巨匠ルキノ・ヴィスコンティの助手として映画とオペラ演出双方のノウハウを修得、現代イタリアを代表する映画監督、オペラ演出家である彼にとって指折りのヒット・プロダクションでもある『ボエーム』を、ここではオペラ映画の利点を駆使して、さらに丹念なリアリズム演出できめ細やかに仕上げているあたりが見ものです。
キャストは、声も容姿も初々しいミレッラ・フレーニ。ミミ役はフレーニの十八番です。ロドルフォ役は、「その高音の輝きはパヴァロッティ以上」とも評される天才ジャンニ・ライモンディ。マルチェッロ役のローランド・パネライは、この役はもうこの人以外考えられないと思わせる見事さです。往年の名バス、イーヴォ・ヴィンコの重厚なコルリーネ役も聴きものです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮もとミラノ・スカラ座管弦楽団による演奏は格別です。カラヤンは後年ベルリン・フィルと同オペラをレコーディングしますが、ここでのスカラ座の俊敏さとカンタービレの魅力は別格といえるでしょう。オペラ史上かけがえのない逸品です。 |